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by tokiohayley

 仕事を終えて電車に揺られる木曜日の夜8時過ぎ。いつものように車内は混雑しているが、運良く座ることができた。車内は仕事帰りの人々がほとんどで、疲れた顔をしてスマートホンを操作している。黒や紺の上着を着ている人が多く、車内の暗っぽい光景に秋の深まりを感じる。それにしても近頃は、暑くなったり寒くなったり、台風が来たりとまるで夏が終わったばかりの九月のような忙しない天候が続く。

仕事帰りはどうしても仕事のことを考えてしまってよくない。もしも学生ばかりに囲まれていたら、案外すぐに頭を切り替えられるかもしれない。自己嫌悪癖がひどくて今日も職場の人たちの顔色を思い出して、勝手に一喜一憂してしまう。スマートフォンに添えている左の親指が視界に入ったので、世界を冷たく映すこの厄介な思考をなんとかぼやかそうと私は親指を眺めて爪の表面を薬指で撫でた。

 爪の表面にある僅かな歪みをみて、噛み付いた昔の飼い犬のことを想った。非業の死に至った彼女のことを想うと、いつもなら悲しい気持ちになることが多いのだが、今日は不思議とほっとする。彼女がこの世に存在していた形跡は、跡形もなく消えてしまったと思っていたが私の身体に刻まれていたことに気づいて久しぶりに会えたような気がしていた。このままずっと、一緒に生きていけるのだと思うと急に勇気付けられるような気持ちがしてくるほどだった。

 そうこうしているうちに最寄駅についた。トレンチコートを羽織っていても少し肌寒いくらいだが、外の空気はひんやりして頭痛から解放される気配がした。今日あった過去のこと、これから予定されている未来のこと、昔の思い出や感情がちゃんぽんになって最後はいつも真っ白になって消えていく。均衡のとれた正常な世界に引き戻してくれる恋人が待つ家に帰り、今日もまた彼の隣で安心して眠るのだ。



tokiohayley
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