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春雷

by tokiohayley

____"現れたそれは春の真っ最中 えも言えぬまま輝いていた
どんな言葉もどんな手振りも足りやしないみたいだ
その日から僕の胸には嵐が 住み着いたまま離れないんだ
人の声を借りた 蒼い眼の落雷だ”________

 米津玄師さんの「春雷」という曲を何度も何度も再生して、いま自分の身に起きていることを理解しようと努めた。彼が一番、この心情を代弁してくれれていると思ったからだ。でも日常は想像以上に速いスピードで私の感情を置いていく。感じる隙を与えてくれないのだ。いや、正確には沸き上がった感情に気づかないふりをして日々の諸々をこなしていかなくてはいけないと、自分自身をコントロールしようとしてしまっているのかもしれない。物質的な事柄はもう十分だ。春の風になりたい。性格というのは何度も変わっていくと聞いたことがある。これを読んでいるあなただって10年前の自分と現在の自分では随分と変化しているんじゃないんだろうか。いままでそれなりに嫌というほど人間が感じる感情という感情を味わってきたはずなのに、もう十分知り尽くしたと思っていたのに、私にはまだ知らない感情があった。この気持ちに名前を付けられない。そしてこの戸惑いと共に、妙に落ち着いている自分にも驚いている。また、新しく生まれ変わったのかもしれない。

 世間は騒がしい。近頃は特に、なんでもヒステリックに騒ぎ立てるように見える。いままで顕在化していなかっただけで、SNSを使いこなす人が増えて声が上げやすくなっただけかもしれないけれど。世の中で取り沙汰されていることって、本当、退屈。全部同じに見える。既読感がすごい。私にはそんな問題、どうやって解決するか簡単にわかるって感じで。今更何を言っているんだろうと思っちゃうの。世の中は狂っているんだから、無理やり、強引に、ときにはその振りかざした正義で誰かを深く傷つけてでも世の直しに余念がない人たちばかりのようにみえて辟易する。要するに、みんな居場所の取り合いだから。…新鮮な空気が吸いたい。空気が淀んでいる。____


 「急速な低気圧の発達により、明日は台風並みの暴風となる”春の嵐”となるでしょう。」…もう、当たり前に思っている人も多いかもしれないけれど、天気なんて移ろいやすく、形のないものなのに、私には信じられないほど天気予報はとても正確で、翌日目を覚ますと実際に暴風雨で窓を激しく揺らしていた。でも、私を起こしたのは窓を打つ横殴りの雨風ではなく、雷鳴だった。春雷。予想外なことに雷まで鳴り響く、嵐らしい嵐がやってきた。私のこの小さな胸の高鳴りを、隣で眠る彼は知らない。もう人生というものを鱈腹、嫌というほど味わったと思っていたなんて甘すぎる。私はまだ、もっと人間をやりたがっているではないかとはっきりと自覚した。春の嵐が吹き荒れる明け方の街は五月蠅いというよむしろ静かで、停滞していた空気が吹き飛ばされ“声“がよく通る。


 世界をもっとおもしろおかしく楽しむ能力が欲しい。(改めて文字に起こすと非常に恥ずかしいのだけれど、)私の心の奥底にはいつも闇が巣くっている。愛おしいものを壊したい。築き上げた関係も、全部無かったことにしたい。積んできた経験も全部崩したい。いままで創って壊して創って壊して、そうやって生きてきた。嫌われるようなことをしているのだから、嫌われて当然だけれど、でもそうなるくらいなら忘れられたい。いい思い出も一緒に、全部忘れてくれて構わない。そうやって自暴自棄を繰り返して生きてきた人生だから、ここ数年の真人間ぶりに私自身感心してしまう。ただ、もともとの性質というのはなかなか変えられないもので、根底にあるしこりと、現実世界の真っ当さのギャップに疲弊してしまうことがある。それに、このまま積み上げていって何があるのか全然わからない。いつか意図せず壊れた時、私は大丈夫なんだろうか。いよいよ本当に、壊れちゃうんじゃないだろうかと思うこともある。こういうときは目一杯好きなものをたくさん買って、少し後悔するくらい散財する。そうすると、ああやっぱり私はダメなヤツなんだ、まったくまともな人間になれっこないのにこうやって時々息抜きして、バランスを保っているんだ、すごく頑張っているのだと、わざとぐるぐる面倒に考えたりして諸行無常の理から目を逸らすのだ。



 彼と暮らし始めて私の人生が始まった。両親と離れて私はついに、私だけの人生を始めることに成功した。恵まれた環境で癒されたためなのか、昔あった辛いことを感情とセットで思い出すこともほとんどなくなった。似たような境遇の話を聞いても感情移入しなくなった。万事解決にみえるだろう。違う。不幸でいる時間が長かったせいで、不幸がないのは物足りなくて進んで落ち込もうとする自分がいる。幸せに慣れたい。すっかり安心しきって、この幸せを感じていたい。退屈な時間は私を破壊的な気持ちにするから、ここからの幸せは私の努力が必要なのだ。なんとかしなくちゃね、また夜に呑まれてしまう前に。


tokiohayley
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